- ■STEP2:最大の害は商品ロス 2017/05/25
前回は、アメリカでは「商品ロス」への取組が進んでおり、注目度の高い要素である事をお伝えしました。今回は、実際の店舗経営に与える影響がどのくらいあるのかについて考えていきましょう。
実際に数値に落し込んでみましょう。商品ロス(棚卸減耗)と値下げ(商品評価損)を比較しながら考えていきます。
まず商品を1つで考えてみましょう。
A:値下げ(商品評価損)
売価100円、原価60円、粗利40%の商品の売れ行きが悪く、半額で処分したケース
売上が50円立ちますが、粗利は▲10円(原価割れ)です。店頭でこういった処分をすると目立つ事もあり、注目度は非常に高くなります。どんな管理をしているのか…と追求を受けそうな事例です。
B:商品ロス(棚卸減耗)
売価100円、原価60円、粗利40%の商品が気付いたらなくなっていたケース
売上はたたず、目立ちません。気が付けばまだ良いですが、量販品になればなるほどそもそも気が付きません。そのため注目度が低く、棚卸の際などに総量で発覚する事が多くなります。ですが、1個なくなった事で▲60円の被害です。
次にこの損失を粗利ではなく、利益の視点で考えてみます。日本スーパーマーケット協会が発行しているスーパーマーケット白書の食品スーパーの経常利益の平均値が1.1%となっていますので、すこし丸めて1%で考えてみましょう。
Aのケースでは▲10円の原価割れです。この損失を1%の利益でカバーしようとすると、どうなるでしょうか?100円の商品を1個売ったら1円の経常利益が残るわけですから、▲10円の損失をカバーするには10個販売する必要があります。1点半額で処分した事で、プロパーで10個販売しないと取り返せません。
Bのケースではどうでしょうか?▲60円の損失をだしていますので、1個1円の利益だと60個販売しなければなりません。1個なくなった事で、プロパーで60個分販売しないと取り返せない損失です。それでも売れるなら良いですが、この市場の状況で、1個なくなったが為に、あと60個多く売れと言われてもそう簡単にできるものではありません。
Aのケース(商品評価損)でも大きなダメージですが、Bのケース(棚卸減耗損)のダメージの甚大さがお分かりいただけたかでしょうか。商品ロスはその原価分が、最終利益から直接引かれる事と同じ状況を生むため、被害は本当に甚大です。
またAの場合はより多くの商品を販売する為に攻めた結果生まれる事もありますが、Bの場合にはプラスの要素は全くありません。1個なくなったことがその都度直接的に損害となります。棚卸の際にまとめてみているので気が付きにくいだけなのです。
メンバーで努力しこつこつ積み上げて創出した利益から、ごっそりとマイナスされてしまう商品ロスを減らし、撲滅していく取組は小売業にとって非常に重要な要素となるのです。小売業が良い状況で存続していく事は、地域に住むお客様の生活インフラでもあります。お客様の為にもしっかりと取り組んでいきたい項目です。
次回は具体的な対策について考えてまいります。よろしくお願い致します。
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【 筆者プロフィール 】
株式会社 せんだ兄弟社 代表取締役 専田 政樹 (https://kyodaisha.com)
株式会社 日本保安 店舗支援PJ担当シニアコンサルタント
7&iグループ出身、小売業歴20年の中小企業診断士
店舗運営管理、販売スタッフ教育等を経験後、グループ内事業会社へ転籍し、小売業から製造小売業への転換を目指す新商品開発部門でSV、VMD、マーケティング、プロモーション企画等を担当し、外部専門職のマネジメント業務等に従事。その後、管理部門の責任者を務め、営業利益▲3%から、1年で+0.5%に改善した実績を持つ。「次代を担う子供たちに【明るい未来】と【豊かな社会】を託す」事を志に独立開業。2017年3月、企業の人に関する支援を行う㈱せんだ兄弟社を設立。組織人事、各種制度構築、業務改善、人材育成などを事業領域として活動中。
→プロフィール詳細
https://www.nihon-hoan.co.jp/column/2017/04/%E2%96%A0%E5%9F%B7%E7%AD%86%
- ■STEP2:最大の害は商品ロス 2017/05/11
前回は、「削減して良い経費」と「削減してはいけない経費」についてお伝えしました。経費削減を行う中で、小売業として本来お客様へ提供したい「商品、サービス」の質を低下させてしまうアクションには注意が必要です。例えば水道光熱費を抑えたいがあまり、「売場の照明の照度を落とす」、あるいは「照明(電球)を間引きする」といった行為は、お客様の心地よいお買い物を妨げ、ますます業績の悪化させてしまうバッドスパイラルに陥る原因にもなりかねません。
そうはいっても、利益性を高める為の取組は必須である事は間違いありません。お客様に対しマイナス要因を作らず、アプローチする為にはどのような取り組みが効果的なのかを考える事が重要になります。
その論点の一つとなるのが、「商品ロス」です。お店の利益創出を考えると、「地味」ではありますが、大きな影響を与えるコストです。損失と言った方が正確ですが、利益を改善するアプローチという意味ではコストと捉える事ができます。会計的にいえば、棚卸減耗損がその一部です。
何故「商品ロス」に着目するか…。それは百害あって一利なしの要素だからです。やり方を間違えなければ、このコストを削減する事でお客様に悪影響を及ぼす要素はありません。
では「商品ロス」についてもう少し詳しく説明をしていきます。商品ロスを分類すると、大きく3つの要素に分かれます。
一つ目は「外部ロス」、いわゆる万引きです。外部の人間による商品ロスを指しています。近年の傾向としては、人口統計の変化の影響もあってか、~10代の若者の検挙が減少傾向にあり、高齢者の検挙が増加しているのが特徴です。またWEBによる商品売買により、素人さんでも換金できるようになった為、転売目的も増加しています。高額な商品を大量に持ち出す窃盗団も存在します。
2つ目は内部ロスです。これは店内、つまり従業員による商品ロスです。店内ルールが緩い為におこる悪気のないものから、レジ打ち担当者と共謀した篭脱け(10点の内、3点しかスキャンしないといった類)、商品を大量に横流しする行為まで様々です。
3つ目は管理ミスです。いわゆる「間違えちゃった」というパターンです。レジでの操作ミスや商品のカウントミスなどがあげられます。
これらは店舗にとって害以外の何物でもなく、精度の高いマネジメントを行う事でお客様への悪影響は全くおこらない、まさに撲滅したいコストです。
しかし、棚卸の前後でしか着目されない傾向が強く、日々の取組に落とし込まれていないケースが多いのが実態でしょう。よりたくさんの商品を販売して、お客様に喜んでもらいたいと考えるあまり、つい後回しになりがちです。
一方で、商品ロス対策が進んでいるアメリカではこんな考え方が広まりつつあります。「商品ロスを放置するという事は、そのコストを優良顧客に負担させている事と同じ行為であり、店舗側の怠慢である」というスタンスです。商品ロス率が高い企業は投資家からも厳しい評価を受けます。利益性を考えた時にそのくらい大きな影響があるという事です。
次回は、実際に商品ロスが利益に与える影響が、数値的にどのくらいあるのかを考えていきます。
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【 筆者プロフィール 】
株式会社 せんだ兄弟社 代表取締役 専田 政樹 (https://kyodaisha.com)
株式会社 日本保安 店舗支援PJ担当シニアコンサルタント
7&iグループ出身、小売業歴20年の中小企業診断士
店舗運営管理、販売スタッフ教育等を経験後、グループ内事業会社へ転籍し、小売業から製造小売業への転換を目指す新商品開発部門でSV、VMD、マーケティング、プロモーション企画等を担当し、外部専門職のマネジメント業務等に従事。その後、管理部門の責任者を務め、営業利益▲3%から、1年で+0.5%に改善した実績を持つ。「次代を担う子供たちに【明るい未来】と【豊かな社会】を託す」事を志に独立開業。2017年3月、企業の人に関する支援を行う㈱せんだ兄弟社を設立。組織人事、各種制度構築、業務改善、人材育成などを事業領域として活動中。
→プロフィール詳細
https://www.nihon-hoan.co.jp/column/2017/04/%E2%96%A0%E5%9F%B7%E7%AD%86%
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